Timeless Sleep
「CLOCK ZERO~終焉の一秒~」を中心にオトメイト作品への愛を叫ぶサイトです。
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おわり。短め。
「いやーさっきはすみませんでしたー。ちょっと不調でして、訳のわからないこと言っちゃいましてー」
CLOCKZEROに戻ってきた頃には、レインはもういつもと何ら変わらない態度だった。先程まで繋いでいた手を撫子は膝口にあてて、ゆるりと首を振る。
「いいわ、そんなの。ちょっとびっくりしたけど……私もいろいろ聞いちゃって、ごめんなさい」
何故あのタイミングで気遣いをかけられることを彼が拒絶したのか、それはよくわからない。けれどレイチェルという名に関しての最初の問いは、完全なる好奇心だ。きっかけを作ったのは自分だと首を振ると、レインは片眉を上げる。
「いえいえー、構いませんよ。ボクが話したんですしー」
「ならいいんだけど」
「ただボクの話はオフレコっていうあれでお願いしますねー。キングとカエル君と貴女以外知りませんからー、かなりレアな情報ですよー?」
「えっ…そうだったの? まあ、そうじゃなくても約束するわ」
唇に人差し指をあてがって見せるレインにきゅっと唇を結び、撫子は頷く。円さえ知らないということは、そうそう人に話はしないということだろう。
けれどいつも飄々としている彼が、崩れ果てた寂しいところで一人きり思いを巡らせていたのかと思うと、胸が締め付けられる。それを思えば、あながちあの場所に訪れたことが悪かったとも思えない。
「…だけど、レインって自分のことちっとも話さないから、ちょっと嬉しいわ。こんなこと言うのよくないかもしれないけど」
「おやおやー、ボクに興味がおありでー?」
完全にいつものペースでにこっと笑うレインに、撫子は唇を尖らせて返す。
「…それは、人並みには。だってこの頃毎日顔を見てるもの」
「うざくてすみませんー。貴女の主治医ですからそこは当然ですよ」
「……そうね。だから、辛い時とかいなくなっちゃった時とかは心配だわ」
膝で手を組み合わせて、彼の笑みに返す。
「調子が悪かったら元気になってほしいとも、思うわよ」
当然でしょうと、そう言った言葉にレインは目を細めた。
「――貴女っていい子ですよねー」
呆れ果てたように言うと、レインは吊り上げられた口の端から押し出すように言い添える。
「たまに、心底嫌気がさしますね」
「……」
悪意さえ感じられるような言葉に撫子が沈黙するが、レインは笑んだままだ。返せる言葉もない撫子の髪に手をかけ、耳に掛ける。
そうではないと言うように頭を撫でる掌は、寝ぼけながら施されたものとは何処か違う風合いがあった。頬に唇の感触。こと慣れたさり気なさで、かすめるように落とされる。
「今日はありがとうございました」
唇が離されるのを、少し体を固まらせて撫子は見送った。
耳のあたりがかっと熱くなるのを感じながら、けれどこんなものは何でもないことだと慌てて脳内でねじ伏せる。
どうしようもなく頬が赤くなって撫子は唇を噛むと、去っていくレインを見送る。
かすかに、古傷が痛んだ。けれどもう痛みなど欠片も残されておらず、それは錯覚だ。深く刻まれた印象がそうさせるのだ。
レインはいつでもふわふわと、曖昧な空気を漂っているようだ。そんな彼の乱雑な様子に驚きはしたけれど、同時に、今までのどの瞬間よりも彼の存在を明確に感じられた。仮面のような笑みではなく、明確な輪郭を持った彼の感情がそこにあった。
――けれど、それだけだ。
側にいたことを無駄とは思わないけれど、きっと自分は何もしていない。それ以上どこに触れることも、触れかたもわからなかった。
「 」
そうしてまた、その内今日のような日が来れば彼は一人で壊れた街を歩くだけ。
そう思うと酷く別れがたくて背に声をかけようとしたけれど、言葉は結ばれない。
こんなに遠い。ここに来てから、来る日も来る日も顔を見て来たのに、自分は彼のことを何ひとつ知らない。どうしたらいいのかもわからない。彼はそれを容易くは許さない。
それに気付いたことこそが以前より近い場所にいる証拠ではある。
だが知らずに己の中にあった小さな望みの途方も無さに、目が眩むような心地がした。
「そんな顔しなくたって、また明日きますよー」
ふと声がかかって、ぴくりと顔を上げる。いつの間にか廊下の曲がり角でレインが片眉を上げるように降り向いている。
「Have a nice dream」
かけられた言葉に撫子がややあって頷くと、レインはかすかに笑んで別階層に移っていった。頬に与えられた温度が、熱を孕んで胸を抉る。
それを知るごとにいっそう寂寞が陰を落としたけれど、それでもかすかな温度は残酷に、そしてどこまでも柔らかに残留していた。
【終焉に射す光】
うーあーレインの難しさは異常。何考えてるのか全く想像がつかない。撫子が加わると関係性が難しいからさらに異常!
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