Timeless Sleep
「CLOCK ZERO~終焉の一秒~」を中心にオトメイト作品への愛を叫ぶサイトです。
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レインルート序盤(私の脳内の)で、鷹斗ルートの一回目キスイベを発生させてみる。
明るめ。
明るめ。
鷹斗の唇は温かで柔らかく、そして酷薄なまでに優しかった。
鈍色の街並には人の気配すら残されず、誰のものとも知れない自転車が乾いた灰にまみれて打ち捨てられている。漂う空気はさほど汚れたものではないが、代わりにどこまでも、何もない。執拗に滅菌された密室のような暴力的な無臭だ。手の石鹸の香りに、甘えるように鼻先を寄せる。
――それでも、人というのは恐ろしい。順応していく。全てを知れば、受け入れられる。
それなりの対価を支払って手に入れた外出の時間だけれど、数日目となる今日までさしたる収穫は無かった。そもそも会話の成立する人間を探し当てるのが一苦労だ。
撫子は際立った美しさのCLOCKZEROの本部を見上げた。現状の『家』だ。
収穫なく帰りつくと、ふと思い出されることがある。その時間の対価としての一時だ。嫌いな人じゃないから、素敵だと思ったこともある人だから、構わないと思った。だから承服した。
けれどその生まれて始めての感覚を何度となく反芻することは。
(自分で思ってたより、夢見たりこだわったりしてたのかしら…?)
「…子供っぽいわ」
振り払うように、撫子は小さく呟く。
「おっと。それってボクのことですかー?」
ふと、からかうような声が掛けられて、顔を向ける。
「おかえりなさい、撫子くん」
お出迎えにきましたー、と言い添えながらレインは通信機を取り出した。
「あーあー、もしもーし仕事しないキングですか? ――はい、怪我なく無事にご帰宅ですよ。安心しました? 仕事に手がつきそうですか? まあボクはなんでもいいんですけど貴方がこれ以上仕事しない状態を続けたら、円君の胃が大変なことになっちゃうのでそこのとこ宜しくお願いしますー」
いつもながらどこまで本気なのかわからない業務連絡を終えると、レインは通信機をしまいこんで撫子に体を向ける。
「さてと、じゃあちょっと行きましょうかー。ちょっと頭のほうを調べさせてもらいます」
導かれるように歩き出し、与えられた部屋へ向かうものとは別の道筋を辿っていく。
やがて招かれた部屋で、撫子は簡素な椅子を示された。精密に脳を調べると言うから頭部MRI検査の設備を想像していたが、行われたのはコードで繋がれて青味がかった光で照らしだされるのみの、随分と簡素なものだった。
「――随分、簡単なのね。もう終わりなの?」
「あーはい。ちゃんと調べてますからご安心くださいー。――貴女の居た時代より、こと医療分野においては飛躍的に発展してるんですよ」
くすり、と含みのある笑いを落としてレインは額に繋がれたコードを取り去っていく。
「キングが貴女のために進歩させたんですから、当然でしょう?」
「あいつの執念は尋常じゃねえからな」
「……そ、そう」
レインが壁際のパネルを操作すると室内に明かりが灯り、撫子の手元が照らし出される。
「――さっきからなんか変ですねー? キングが怖いですかー?」
「そんなことないわ」
こちらに背を向けながらの問い掛けに意表をつかれながらも、撫子は即座に首を振る。レインは体を返して、撫子の膝元に腰を落とす。
「ところで。今日ボクが貴女を迎えにきたのは、キングが夜も眠れないくらい貴女をうっとうしく心配してたからなんですー。…でもそれなら、「鷹斗さん」が迎えに行ったらいいじゃないですかーって言ったんですけどね」
「したら『俺は彼女の嫌がることしちゃったから、謹慎中だ』だとさ! 相変わらず意味不明だな!」
謹慎、という言葉に脱力しながらも、その物言いがどこまでも彼らしいことに撫子の唇に苦笑が漏れる。その「彼らしさ」を好ましく思うには彼への怒りが根深いが、自分で納得した取引に関しての責を鷹斗に負わせるほどには、撫子ももともと子供ではない。ただ、ほんの少し。
そうして複雑な笑みを浮かべる撫子の視界に、紅の瞳がどうしようもなく映る。
うつむきがちの撫子と彼は自然に見つめ合うような形になり、特に意味も色気もなく十秒ほどひたと見つめ合った後、レインは少し笑った。随分と行儀悪い座り方でありながらどこか小奇麗な印象のまま、レインは猫のような瞳を細める。
「キングが勝手に加害意識持っちゃってるだけかと思いきや、そうでもなさそうですねー。ていうかボクめんどくさくて事の仔細をちゃんと聞いてないんですけど、貴女何されちゃったんですかー? 外に出ることの交換条件ですよねー?」
気負いなく問われる。的を射ている上に直球の問い掛けに、撫子はぱちぱちと目を瞬かせる。
「――それは…」
「はい」
「…ええと」
面白げな光があるのがとても気にかかるが、問い掛ける声が思いのほか真面目なことが、軽く流して終わらせるのを撫子に躊躇わせる。
だが口に出せない言葉がまわるにつれ、恥ずかしさといたたまれなさで頬が熱くなっていく。
「お、おい。なんかこいつ赤面してやがるぞ!? どうすんだ!?」
「なんでカエル君まで照れてるんですか? ……ふうん」
「なっ…何よ」
頬を赤らめるさまを鼻を鳴らして観察され、撫子は語尾を強める。
するとレインは軽く顔をうつむけた。細い髪がさらりと流れて、彼の表情を隠す。
「――そうですかあ…。可哀相に…キングにそんな卑劣な一面があるとは。さすがのボクもショックを隠しきれませんね」
「え…?」
不意に低められた声に驚いて、撫子は目を瞠る。
「…ちょっと、どうしたの?」
「――まさかそんなことするとは思いませんでしたよー。キングが貴女に乱暴するなんて」
「……」
時の停滞かと思われるような静止の後、撫子はガタッと盛大な音をたてて椅子から立ち上がった。パイプ椅子であれば飛ぶような勢いに、カエルが「おお!?」と声をあげる。
「ちっ――違うわよ!!」
「あれ? 違ってました?」
「あ、当たり前でしょう!?」
意味を咀嚼するのに悠に二十秒ほど用いた撫子は、耳まで真っ赤にして仁王立ちになると、背筋を反らせて見上げているレインに叫んだ。
「らっ…乱暴なんてそんなひどいこと、鷹斗がそこまでするはずないでしょう!? キスしただけだわ、私が!」
「キスしたのか!?」
「ほうほう、キスしたんですか貴女が?」
「そうよ!!」
食いついてくるカエルとレインに力強く肯定してから、撫子は我に返る。
にや、と笑うレインの表情が視界に映り、震える唇を引き結ぶ。
「――意地悪、なのね」
「いえいえ。気遣いの一環ですよ」
有り体に言えばカマをかけたレインは、首を傾けるように邪気の無い笑みを浮かべた。
そうして鼻を鳴らす彼のお団子を掴みたい衝動に駆られながらも、育ちの良さでこらえて撫子は溜息混じりに腰をおろす。ふいと顔を背ける撫子を見やりながら、レインは頬に手をやって思案するような間を置いた。ただ面白がるという風でもない沈黙だ。
「……まあ、それでもらしくないような気がしますけどねー。貴女を傷つけたくない鷹斗くんですから」
「…別に、傷ついてなんかないわ。私がいいって言ったんだもの」
「まあ彼のほうが傷ついちゃってますけどそこは自爆ですねー。それで貴女は、傷ついたつもりはないけど、意外と気にしちゃってどうしよう、ってとこですか?」
「…ねえレインって、どうしてそんなに私の考えてることがわかるの?」
「年の功ですかね」
敗北感に包まれながらすねたように問い返した撫子に、レインは説得力皆無の幼顔で返した。
「子供っぽいって、思ってるんでしょう?」
「そうでもないですよ。……なるほどねー」
嘘か本当かもわからない声音とともに喉元で笑うと、レインはふと撫子を見据えた。読めない瞳に惑って撫子が眉をひそめると、不意にレインの指先が撫子の頬に伸べられる。
「…っ?」
首筋にかかった指にくいと引き寄せられて、撫子は眼前に腰掛けたレインへと前のめりになる。肩口から零れ落ちた髪がとレインの手元に流れるのをどこか人ごとのように見送りながら撫子が瞳をしばたたかせると、レインは無言で撫子を見返した。
(え? ――嘘)
唐突すぎる流れに絶句しながらも、状況から導き出される可能性に撫子は固まる。首筋を包む手は意外なほど大きく、皮膚は薬品にならされたのか硬い。――そんなことについ意識を向けながら硬直して撫子は、ふいと口付けられるのを受け止める。
カエル君に。
「……」
「んあ? なんだ? どうした?」
「あはは」
「何があはは、なのよ」
どきりとしてしまった自分を恥じながら、撫子が低まった声で言う。
「撫子くん、カエル君ともキスしちゃいましたねー」
「…キスって、キスじゃないわ。こんなの」
「なんだと俺の唇を奪っといてこんなのとはっ」
「そうですかー。そうですよね? キングとのも同じですよ」
眉をひそめて言った撫子に、レインはしたり顔で唇を吊り上げる。
「主観的なものですし、貴女にその手の気持ちが少しでもなければそうじゃないんですよー。ただの接触ですー」
「接触って…」
言いたいことは理解できるが、そんな風にドライに割り切ることはできない。
「ま。それが難しければ、挨拶だと思えばいいんです」
「…アメリカ人のキスって頬だけじゃなかったかしら?」
「たまーにスキンシップ過多な人がいますからね」
「そもそも私は日本人なんだけれど…」
「おやおやー、グローバル社会に何言ってるんですか?」
どう考えても「ここ」では使われていなさそうな2010年仕様の単語を用いながら、レインはさもなんでもないことのようにさらりと言う。
「…ふうん」
それにしても随分と軽く言ってくれるものだ。レインの言うことを聞いていることをそのまま受け入れるには撫子は厳しく育てられ過ぎたが、彼の言葉を聞くにつれてなんだか馬鹿馬鹿しくなってくるのも事実で、撫子は笑みを滲ませてくすりと笑った。
そもそも胸に掛かっていたものは曖昧なものだ。与えられる言葉に緩めば、もう元の形を思い出せなくなってしまう。
「何を思っていたのか、わからなくなっちゃったわ。レインのせいよ」
苦笑混じりに言った撫子に、カエル君が「簡単なやつだなおい」と呟く。
「――そうね。そう思っておくわ」
無駄な物思いを振り払えるならばそれでいいのだと言い捨てて、撫子は椅子から立ち上がる。レインは扉を開き、撫子を促すと廊下へ歩みを始める。
「なんか、珍しく素直ですねー」
「…珍しく、は余計よ。だってこんなこと、いつまでも考えてるの嫌だもの」
そんな暇ないのと言いたげな撫子にレインはふっと笑う。
「その意気ですよ。そうでないと、キングの考えを変えることなんてできませんし」
白衣のポケットに両手を差し入れながらレインは言うと、その言葉をただ静かに受けて見返す撫子と視線をあわせる。
――ふとごく自然な仕草で撫子の輪郭を捉えると、その唇に唇を寄せた。ふわりとかすめるようなそれは、冗談のように離れていく。
「お疲れ様です」
言い添えるレインの声を撫子は何も言えないまま聞き届けている
そう思っておくと、たった今言った。
そう思っておくと、たった今言った。
レインはアメリカ人だし、これは本当になんでもないことなのかもしれない。
そう、となんとか返した撫子にレインは目を細めると、体を返して部屋へと歩き始める。
そう、となんとか返した撫子にレインは目を細めると、体を返して部屋へと歩き始める。
「――」
彼の言葉で、確かに抱えていた惑いは消え去った。
――主観的なものですし、貴女にその手の気持ちが少しでもなければそうじゃないんですよー
けれどあの言葉は本当だとたった今知らしめられて生まれた新たな惑いは、誰に告げればいいのだろう。不快とは言い切れないその揺らぎに、撫子は高鳴る鼓動を沈めながらレインを見やる。
その惑いを口にすることは、今度こそできなかったけれど。
*
「撫子は、元気だった?」
夜叉のようなオーラを放出する円の監視の元で仕事に勤しみながら、鷹斗がおなじみのお花畑な問いを投げ掛ける。
「あーはい、そうですねー。体のほうも精神のほうも、少なくとも貴方よりも元気なんじゃないですか?」
「そう。良かった」
「キング」
「あ、うん。やるよ。ちゃんとやるから」
円の一声に間髪いれずに頷きながら仕事を再開する鷹斗を横目に、レインは撫子の検査結果を宙に映しだして彼の視界に入れてやる。視線をやるなり安堵したように鷹斗は笑う。
その穏やかな笑みとともに、仕事の効率が格段に上昇した。円が呆れたように首を振るさまに喉で笑うと、円はひどく面白くなさそうにレインを睨みつける。
「ははあ。愛ですねー、なんというか」
「うん、そうなんだ。…今はちょっと嫌われちゃったけどね」
「そうでもないですよーご安心ください」
笑いながら言って、レインはふと言い添える。
「でもそう思うなら、あんまりつまらないことしないほうがいいですよー?」
「……ん?」
違和感に、鷹斗が顔を上げる。レインは常と変わらぬ読めない笑みを鷹斗に返しながら、映し出した画面に一瞥をくれる。
「彼女の精神面のケアも主治医の仕事ですしー。あれくらいの役得なら、許されますよね?」
相手に意味が取れないことをはなから知っているような言葉選びで、レインが言う。だが鷹斗は手にしていた書類を執務机に置き去ると、青年を見返す。直前まで気の抜けるような光だったその瞳が、ふと睨むように細められる。
「――何が役得だよー。途中から私情入りまくってんの、どこまでもうまいこと正当化しやがるなあ」
レインの手元で、持ち主にだけようやく聞こえるほどの声音でAIが呟いたけれど。
鷹斗の問い掛けとそれはほぼ同時に落とされ、返される声もない。
鷹斗の問い掛けとそれはほぼ同時に落とされ、返される声もない。
客観的には穏やかなまま、時は夜に向かってゆるやかに流れていく。
【Global Standard?】
こんな人たちに撫子が振り回されてたらりったんはCLOCKZEROを爆破しそうだ
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