Timeless Sleep
「CLOCK ZERO~終焉の一秒~」を中心にオトメイト作品への愛を叫ぶサイトです。
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レインさんの自室訪問、レインさんの部屋着、…とかがやりたかった。だけ。
わかりにくいけどちょっと好きになりかけてる撫子さん。
わかりにくいけどちょっと好きになりかけてる撫子さん。
ピンク、金色、緑、エトセトラ。
鮮やかな色彩は、白と灰に沈み込むような暮らしの中ではいつもひどく華やかに映る。彼はいつだって、尋常ではない目立ち方をしている。だから姿を探すのに一手間かかろうと、行き着いた場所では視線をめぐらすまでもなく、なかば強引に視界に飛びこんでくる。それがいつからか何処か心地のよいことに感じはじめた昼下がり、撫子は見慣れた髪にすこしだけ、首を傾けた。
「――レイン?」
一室からふらりと出てきた青年は、かけられた声に振り向く。
「はいはーい? 何か用……ああ、貴女ですかー」
「よーお」
「……ああ、レインよね」
「はい? レイン君ですよー? 円君と見間違えました?」
口を開けばいつも通りの軽口を叩き始めたレインに笑いながら、撫子は安堵とともに彼の姿をひたと見詰める。問いかけたのは、どこか真新しい印象があったからだ。
「…今日はお医者さんじゃないのかしら? レイン」
彼の特徴としては、カラフルな私服に白衣、耳の上で一束結われた髪と髪飾り、首にぶら下げられた聴診器と緑のカエルというものがある。その内の四つほどが目前には見当たらない。
白衣と聴診器に代わってピンクのパーカーを羽織っているので相変わらずの派手さではあるのだが、髪を結っていないことが思いのほか彼の雰囲気を異なったものにしている。幼顔に大きめのパーカーのために少年のようでもあるが、派手な人形のようないつもの姿より、それは年上の男性めいた印象を撫子に与えるものだった。
「あーはい。まー医者の仕事に関しては休みなんかありませんけどねー。でも今日はポジション・ルーク君はお休み、です」
「そうなの。そういえば貴方って毎日働いてるものね」
「ボク働き者なんですよー。…そう見えるようにやってるってのもありますけどね。押さえるとこは押さえておくってわけです」
パーカーに両手を突っ込みながらにや、とレインが笑う。要領の良さに嘆息しそうにもなるが、何処までも彼らしいとしか言いようがなく苦笑する。
「…それで鷹斗がおやすみくれたの?」
「ぶっちゃけますとボクがさっき決めました」
「…さっき?」
「『あーなんか今日は働くべきじゃない気がします』っていきなり言い出したんだぜ! 自宅警備員みてーだろ!」
「だからですねーそもそもボクはサボってても働きすぎなんですよー。ふつうに法に触れてますから。たまにはここでぐだぐださせてくださいよー」
眉を寄せて泣き言を言うレインは、この世界に引き込まれてからもう余り聞けることもなくなっていたストラップだった頃の喋り方に似ている。
「…よくないけど、今日ぐらいならって気もするわね。…ここって貴方の部屋だったの?」
「ええ。…入りますかー?」
「え、いいの?」
「別に見られて困るものも無いですしーまあちょっとはありますけど。……ただ貴方の『見たいもの』も無いでしょうけど、それでも良ければ、どうぞどうぞー」
「……じゃあ、お邪魔しようかしら」
「礼儀正しい子は好きですよー」
膝口に両手を揃えて礼をとる撫子に微笑んで、レインはたった今出てきた扉の小脇のパネルを操作する。細い指先が惑いなく動き、程なくして扉が開かれる。中の光景をそろり覗き込んで、どこか想定通りの光景に思わず笑った。
中にはそこかしこにほんの少し斜め上なセンスの雑貨が置かれ、色彩が明るく絵の具をぶちまけたようだ。暗い色調は全くなく、特に窓際のあたりなどは学校帰りにたびたび訪れた雑貨屋のようだった。
中にはそこかしこにほんの少し斜め上なセンスの雑貨が置かれ、色彩が明るく絵の具をぶちまけたようだ。暗い色調は全くなく、特に窓際のあたりなどは学校帰りにたびたび訪れた雑貨屋のようだった。
「…ふふ。レインの住んでそうな部屋だわ」
「そりゃボクの部屋ですからー。気に入りましたー?」
「自分の部屋には落ち着かなさそうな気がするけど、気に入ったわ」
「微妙にうれしくない賛辞ありがとうございますー。そこのクッションにでも座ってください」
言われたとおりカエル君柄のクッションに腰を落とすと、カエル君が「俺のかっこいい顔が!」と声をあげる。レインは構わないまま備え付けの棚――どうやら冷蔵庫から、カップのアイスクリームを出して差し出してきた。
「食べる?」
「ええ。ありがとう」
わかりやすく笑顔になる撫子に、レインは面白げに目を細めながら片膝を立てて座り込み、ベッドに背をもたせかける。膝口に抱え込んで開けられたカップは、撫子に差し出されたものの軽く数倍はある――というより、もはやアイスの大きさではない。
「……」
「おや、どうしました?」
「……レイン、それ全部食べるの?」
目を丸くしながら問い掛ける撫子に、レインはカップを掲げるように片眉を上げる。
「これくらいなら、十分くらいですかね」
「――うそ!?」
「本当ですー」
「マジだぜ、頭おかしいだろコイツ」
「…どうしてそんなに細いの? 不公平だわ、私がそんなに食べたら大変なことになっちゃうのに…」
羨ましくてならずに明け透けに呟いた撫子にあはは、と笑うと、彼は一掬いを口に運びながら、柔らかい瞳で撫子を見返す。
「なあんか我慢してるように見えることありましたけど、もしかしてそのせいですかー?」
「え…。…それはまあ、そうね」
「やっぱり。大丈夫ですよー。ちょっとくらい太ったって貴女かわいいんですからー。っていうかもうちょっと太ったほうがいいんじゃないですかー?」
そこは米国人らしさなのか、可愛いとその言葉にてらいは全くない。促すように手を払うレインに、不覚にも少し照れてしまいながら撫子はうつむいた。出されたものを断る礼儀はないのでもともと食べるつもりだったのだけれど、より楽しい気持ちで蓋を開ける。
ぱく、ぱく、と熱心にアイスをほお張り始める姿に、レインは満足気に笑んで己も乗じた。軽口まじりに言葉をかわしながら、それにしてもと視線をやる。――細い髪の落ちるさまにますます感じるのは、常との空気の違いだった。
「……レインって、髪を降ろしてると雰囲気が変わるのね。びっくりしちゃった」
食べ終えたカップを捨てながらのレインは、撫子の一言に意表をつかれたように瞬く。そしてふと、口の端を吊り上げる。へえ、と覗き込むような仕草に細い髪がさらりと流れて、紅の虹彩が印象的な切れ長の瞳を際立たせた。
「それで、貴女はどっちが好き?」
「え…」
答えに窮しながら、レインのにやりと笑う唇を見返す。
「どっちって……どっちもそれぞれ良いと思うけれど」
もっと言えば、今日の扮装の方が普通に近いためか、こうして部屋にいると年上の親類を遊んでいる気分になれて楽しい。けれど常の姿はもはや彼のキャラクターとして認識しているので、そちらへの愛着も強いのだ。
「ほうほう、つまりどっちも良いと。照れますねー」
「ポジティブシンキングなのね」
「そこはボクの取り柄です」
…それにしても、今日は随分と砕けた雰囲気だ。それは久々の自分で決めた休日の為か、それとも雑談をするようになってそれなりの日数が経ったからか。打ち解けたからといって喜ぶような状況でもないけれど、作り出されるくつろいだ空気を嬉しく思うことは悪いことではないだろう。
「…こういうの、久しぶり」
いつか遊んでくれた従兄弟などを思い出して笑みを落とすあどけない撫子に、隣に腰掛けたレインがかすかに笑う。向けられた瞳に首を傾けて、ややあって彼は声を落とす。
「…ねえ、撫子くん。ボクからも言いたいことがあるんですけど」
「? 何かしら」
「ついてますよー」
「!?」
ぐい、と袖口で撫子の口元を拭ってから、彼は眉を寄せるように苦笑を落とす。
「いまのは嘘です」
「…はい?」
「貴女、ほんと今の自分のこと全然わかってないですねー。よくないですよー?」
撫子には意味の取り切れないことを口にしながら、伸べられた指先がふと撫子の肩を捉えた。問うように見返した瞳に、答える眼差しは笑んでいるけれど、微かに鋭利なものを含んでいる。
「……レイン?」
返した、長い指先で。彼は不意に撫子の肩を強く押した。くるり上向いた視界とともに、上背をベッドのマットの際に打ち付ける。僅かな痛みに戸惑って見上げれば、すぐにレインの瞳が映る。――降ろされた髪のせいか、輪郭を隠すそれの合間に見える瞳は、どこか見覚えのないものにも見えた。
「……ちょ、ちょっと…っ」
「さてさて、どうしますか?」
状況に気付いて抗おうとした撫子に、待っていたような響きが降りかかる。
「何…するのよ…っ」
振り払おうとするけれど、押さえつける力は細腕では考えられないほどに強い。抗えない。それとも、それは撫子の非力がそう思わしめるのか。
「無理ですよ。ボクだってこれでも男ですし、十年間眠りっぱなしだった貴女なんかどーにでもできますよ」
笑んで。少女の無垢さを好ましくも憐れむような口ぶりだった。
けれど言葉通りに撫子の力は彼の掌で飛散する。これまで親に手をあげられたこともない『この』撫子には、自分の意思など簡単に捻じ伏せる圧倒的な理不尽さなど、覚えがない。うなじが泡立つ。無遠慮な掌に怒りを灯して睨みつける瞳に、けれどレインは面白そうに笑むと、撫子の耳元に唇を寄せる。
「――貴女はもう小学生の子供じゃないんですよー」
ハスキーな声は、発し方によってひどく異なった響きを持つといまさら気付く。
「その意味、ちゃんとわかっておかないと必ずひどい目に遭っちゃいますよ?」
「…っそんなのわかってるわよ! いきなりなんなの!?」
首筋にかかる吐息にさっと頬に熱が上るのを感じながら、撫子は顔を背けて叫ぶ。
「わかってないですね。わかってたとしても、具体的に身についてないですよー。じゃなきゃこんな状況にあっさり陥らないでしょー?」
大人に憧れていましたけど、それってその代償に色々と面倒も増えるんですよ、と。
常ならぬ低まった声で囁かれた言葉の、その正当性に――撫子は振り払おうと抗っていた手を止める。唐突に虐げるにしては、彼の言っていることは正しい。ひどく正しく、撫子の脳に刻まれる。
そうして彼の意図をぼんやり悟ったけれど、それでも輪郭に他人の髪が降る――その感覚の刺激の強さは、どうにもならない。
「…わかったわよ。……貴方これ以上するつもりちっとも無いでしょう?」
「……さあ、そこはどうでしょー?」
「……わかったから…学習したから、離してったら!」
くすりと耳元でかすかに笑う声がする。
「賢いですねー?」
軽く頬にキスを落として、愉しげにレインは「了解ですー」と撫子を解放した。
自由になった掌で、思い切り彼の頭をべしりとはたいてやる。
「あいたっ」
「……っびっくりするじゃない! やり過ぎにもほどがあるわ!」
頬に手をやりながら真っ赤になって抗議する撫子に、レインは素直に「すみませんー」と言った。とはいえ反省の色は見えない彼に、けれど撫子もただ息をつく。
これは聞いておくべきだったことで、やり方はどうあれきっと大切な忠告だ。何も酷いことはされていないしそれ以上怒ることでもないと――動悸を呑み込むように唇を結ぶ。熱を沈めるように息を吐く。
はたかれた頭を撫でながら、そんな撫子にレインは手を差し伸べた。ふわり、髪を撫でられる。
「許してくださいよー。これでもボク本気で心配してるんですよー?」
「どうかしらね」
ほとんど信用には足りない彼の言いように、睨み上げる。そう返されることを知っていたように笑みで流すレインの眼差しは、けれど嘘のないもののように思えた。
「……。…ちょっとは、ありがと」
「ええ」
恩を着せるでもなく、つっけんどんに放った礼を彼はただ受け取った。ごめんなさいと笑った。その笑みの穏やかさに調子を狂わされて、睨み上げる瞳が力を失ってしまう。掻き混ぜて引き出した髪を指先にもてあそんで、レインは傍らに腰かけている。
「――なんだかやっぱり貴方、いつもと違うわ」
横顔に呟いた一言に、レインはただ見返す。鼻を鳴らした彼の唇が弧を描いた。
「今日は、ポジション・ルークはお休みって言ってるでしょー」
「……それって、レインとはまた違う人なの?」
「…さあ、どうでしょう。ただ、今日はかわいい子と一緒にお休みって決めたって訳ですよー」
息を声に混じらせながら、レインは笑んだ。浮かべられた笑みはいつも通りの何処かからかうようなものだけれど、髪を弄ぶ指は、何故だかひどく優しい。
「何もかも、ね」
他意は無く、むしろ限りなく無意識にその指は動いているように見えた。だからこそ酷く居心地の悪さを感じながらも、くつろぐようにベッドにもたれかかるレインを見据える。
――ルークを休んで、他にも何か休むことがあるのだろうか。
そう思いながら彼を見据えた視界の端に、先程は目に映らなかったデスクを見つける。何十冊もの本に埋もれ、部品に埋もれ、ぬいぐるみもあるけれどマグカップや毛布などの衣食住の跡が強い。こんなにも明るい部屋なのに、――そのデスクに唯一確かな生活感がある。雑貨屋のようだと最初に感じた、もう一つの意味に気付く。
「…そんなときに、私が遊びにきちゃって邪魔じゃないの?」
髪を三つあみにしはじめながら、織り込むように彼は言う。
「意外と、そうでもないですよ」
口の端を上げながらの小さな声が、さっきの今なのに心地よく響く。
それならこのまま、彼の休日が穏やかに暮れていけばいい。
華奢な指先に巧みに髪を編まれるやわらかな刺激を感じながら、撫子は彼の気が済むまでその指先に身をゆだねた。まどろみのような時間が壊れてしまわないように、息をひそめて。
華奢な指先に巧みに髪を編まれるやわらかな刺激を感じながら、撫子は彼の気が済むまでその指先に身をゆだねた。まどろみのような時間が壊れてしまわないように、息をひそめて。
【ポジション・ルークの微睡】
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