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Timeless Sleep

「CLOCK ZERO~終焉の一秒~」を中心にオトメイト作品への愛を叫ぶサイトです。
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1の続きー。

 
「――それに」
 ぼそ、と呟いた撫子に、円が首を傾ける。
「私は自分でやろうとは思わないけど……円には、けっこう似合ってるって思うし…」
 何を言っているんだとも思いながら、円がらしくない口を叩いたせいか口が回る。
「さっきだって、…その、少し」
 
 見惚れていたもの、という言葉はもごついた唇に消えるが、何を言わんとしたかは容易に伝わったようで円はじいっと撫子を見つめた。
 
「だからその――くだらないことなんて、何もないわ」
 
 その視線に落ち付かずに、語尾に力をこめて言葉を終わらせる。きゅ、と触れる指に力をこめる。
 
「――」
 
 しばらく黙っていた円は、ふと眉を寄せるように笑むと、素肌に触れる撫子の手を取り上げた。節の浮いた大きな掌が、その想いをくるみこむように華奢な指を握りしめる。
 
「ぼくも人間なので、そんなこともあったってことですよ。もうそんなこと思ってません」
 
 薄い唇が柔く、薄紅色の爪を食む。
過去を返して蘇らせたかつての思いを、確かに鼻先で流すように円は言った。嘘の無い声は、安堵を与えてくれる力強さで指先に染みる。
 
「……そう」
 ふっと微笑んで言った撫子の手を、ふと円がくいと引き寄せる。
「ちなみに。どうしてだと思います?」
「え…?」
 囁くような問い掛けに目をみはった撫子の目尻に、ふと甘く唇が降らされた。
傾いた肩を支えるようにあてがわれた掌が、先程撫子がそうしたように、いたわるように撫でさする。
「こういうぼくに、触れてくれる貴女がいるからですよ」
「……っ」
 
 不意打ちにさっと頬に血が上るが、背ける暇もなくもう一度落とされる唇を、受けている。その唇の優しさが、告げられた言葉を裏打ちしている。そのことに胸の奥から高まりが湧きあがって、指を絡めるようにもてあそばれる髪の感触を心地よく感じるしかない。
 ――もしもそうなら、そんなにうれしいことはない。
その言葉を口にできるほど撫子は素直ではないし、そもそも口がきけない。
「――ふ、…っん」
 
 食むように口付けられて、覗かされた舌先が撫子の唇の合間を伝っていく。流されるようにその濡れた気配に唇を開くと、柔らかだがどこか痛みのある刺激が撫子の口内にもたらされた。痛むようなそれは、けれどどこまでも甘い。
 歯列をくすぐるような、からかうような舌先が、緩やかに絡められ互いの吐息を交わらせた。寄せられた首筋から、かすかに雨の匂いがした。
 
「温かい、ですね?」
 
 笑い含みの声は、ただ重なった肌だけの意味合いなのか。
 味わうように撫子の唇に漏れる唾液をぺろり舐め取りながら、円はかすかに笑って唇を離す。艶然と微笑むさまに、撫子はこくり素直に頷くしかなかった。
 
「…――あ」
 やわらかな触れ合いの余韻に幸福を噛みしめながら、はたと我に返って円を見つめる。円の体はもう乾いていて、タンクトップは床に脱ぎ捨てられたままだ。
 
「…着替え、出すの忘れてたわ」
「着替え?」
「うん。ちょっと待ってね?」
 ややはしゃいでいるのが語尾に出てしまう。だが立ち上がろうとした撫子は、ひょいと腰を抱え込まれて引き戻された。ぽすん、と円の膝に納まる。
「何言ってんですか、冗談でしょ。いりませんよ」
「……はい?」
「貴女が誘ったんでしょう」
 耳元で囁かれた声に、撫子はぱちりと目を瞬かせる。首筋にかかった息に全身が強張りつく。
 
「――貴女があんな風に体に触ってきたうえに、珍しく健気なので、うっかり欲情しちゃいました。責任、とってくださいね」
 一瞬唖然としてから、我に返る。
「なっ――なんでそんな責任なんて、私が」
「覚えが無い? まさか。大体今日に限っては、先に性的な目で見て来たのは貴女のほうじゃないですか」
 貴女って濡れ髪がお好みなんですか? と意地悪く畳みかけられる。
「せいて――」
 
 唇を凍りつかせる撫子をいいことに、軽々と腰を抱え上げられて狭いソファに引き倒される。体格の良い円に覆いかぶされれば体の自由がきかない。
それでもばたばたと脚をばたつかせる撫子を、捕食者の満足気な笑みで体ごと捕らえる。
 
「――何よ、それ! 私は…私は聞きたいことを聞いてみたら円がなんだからしくないこと、言うから…驚いて…心配で…っ!」
「…そーやって喜ばせるからいけないんですよ」
 円がくすりと笑う。
「それに貴女だけぼくの裸をあんな目で見て触れて、ぼくには何も無しなんて道理もないはずですよ」
「それは円が勝手に脱いだんでしょう!?」
「貴女が勝手に見たんでしょ?」
「見っ…」
 
 少々思いあたる事実もあるだけに、うまく言い返すことができずに撫子は口をぱくぱくさせる。肩口を押さえる手と共に、もう一方の手がその輪郭を確かめるように腰元から押し上げられていく。その感覚に、びくりと体が跳ね上がる。
 
「――ああ、その物凄く理不尽な気がするけど抗いきれないって顔。いいですね。凄く、そそります」
「感想はいらない! それに思い切り抗ってるわよ…っ!」
 振り被ろうとした手は押さえつけられ、深い口付けが落とされる。問答無用で引き出されようとする覚えのある甘い感覚がある。
「そうですか? ぼくには全くそんな感じがしないんですが。貴女、力弱いし」
「貴方が強すぎるんじゃない!」
「褒めて頂いてうれしいですね」
「だっ――だいたい、私が貴女に聞きたいことはまだあるのよ!」
 
 間を持たせるためか心からか、自分でさえ判らぬままに撫子は怒鳴るように返す。
「円は…なんで。なんでそんな女の人の扱いに慣れてるのよ!? 十年で何があったの? 酷いじゃない! 私はここに連れてこられて、好きになったのだって貴方だけなのに!!」
「そこは…そうですねえ」
 
 悪役にしか見えない笑顔で撫子の疑問を受け止めると、円はそんなことで激する撫子に鼻先を寄せて、その唇を丹念に塞ぐ。
 
「――黙秘権を行使、ということで」
 
 溜めておきながらあっさりと答えることを投げた円を、撫子は思い切り蹴りつける。
 
「そんなものないわよ。答えなさいよ・・・っ!」
 
 混乱の余り本来主張すべきことを忘れて、組み敷かれたままの体勢で怒鳴りつける。それさえも何もかも一度火をつけられた円を駆り立てるための材料でしかなく、剥きになる撫子を黙らせようと試みる。
 寒いので温まりましょう、と囁いた声に撫子が投げつけようとした反論は、食まされた円の指先と首元を伝う唇、そして強くなりはじめた雨音に掻き消され、あえなく飛散した。
 

【円くんに聞きたいこと】
央くんがなかなか戻ってこないのは空気よんでます(泣くところ)

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